ようこそ!
……などと景気付けに書いてはみたものの、カラ元気である。大人になり、いや母になり、夏休みというものが、いかに面倒かというのをこの数年身にしみて感じている。
特にうちの娘はまだ低学年なので、公園へ行くにも、道路の車が危なかったりと、どこへいくにもまだ私が付き添ってやらなければならず、昨今の異常なまでの夏の暑さに、朝から参りっぱなしでへとへとになる40日間となっている。ようこそ、どころか「来たな、夏休みめ!」ってなもんである。
けれど、私がこんな不機嫌なオカンになるずっと前。
あの頃、夏休みは、特別だった。
「早よ、起きんかい!」と布団をひっぺがし宿題をせかす今でも、あの特別な感覚だけは、心の片隅にあるのだ。
そして時々、その心の中に残っている夏休みの匂いが、ふいに何かのきっかけで覚まされることもある。
高岡ヨシさんのこの話を読んだときも、そうだった。
http://yoshitakaoka.hatenablog.com/entry/2017/06/08/215526
いつも、素敵な文章を書くお方である。
そのid:yoshitakaokaさんの電子書籍「五厘クラブ」。
こちらのブログにも感想を書かせていただいた。http://yoshitakaoka.hatenablog.com/entry/2017/06/23/180645
主人公の生き方はもちろん、個人的には、先の感想にも書いたように彼のお姉さんも男前だと思った。さらに追記すると、アイカという女性もまたかっこいい。
私の話になるが、大学生の頃付き合っていた先輩が、海外の企業にインターンで行くことになった。とても優秀な人だった。
恋にハードルはつきものとはいえ、私は、生まれて初めての遠距離恋愛、それも遠く離れた海外と日本という難易度高めのハードルにぶち当たった。
つまり高岡ヨシさんの小説のアイカと同じ立場に立たされたのだった。
ただ、アイカは強かった。むしろ海外留学を躊躇する主人公の背中を笑顔で押すことができる人だった(後半それでも精神的に辛くなるのは当然だと思うけど、それに対する主人公の行動もまた素晴らしかった)。
私は、当時の彼氏に海外インターン決まったよ!と聞かされたとき、とてもショックだった。
TOEICもTOEFLも高得点、てかほぼ満点という人。彼の今後の就職などを考えても是非選択すべき道であり、私もそれを褒め称えたい気持ちはもちろん十分あった。
ちなみに私のTOEICの点数は最低の時で300ぐらいしかなく、マークシートでその点数ということは「確率をも超えるバカ」なのだろう。※いや、初めての時は時間配分間違えて白紙だったんですよ後半。
ただ、わかってはいても、それでも寂しくて仕方なかった。だから笑顔で行ってこいなんて、言えなかった。たかが彼女の立場で反対なんてする権利がないし、海外に行くのを止めて欲しいわけでもなかった。
けど、あなたは良いよね、これから輝かしい海外生活。目に見える全てが新しくて、刺激になる、そんな世界で、やりたいことをやれるんだから。
私は、違うんよ。
あなたがいた日常に、取り残されて、いつもと同じ学校に通って、いつもと同じ時間を過ごすんよ。だけど、いつもと同じやのに、そこには、あなたが居ないんよ。一人ぼっち。私のこと、置いていくねんな……。
いやあ、陰気やわ私。
じとーっと、怖い、うらめしや、な気持ちを隠さなかった。面倒くさい女だった。
でも遠距離恋愛、意外と普通に乗り切れた。お互いに浮気することもなく。
あんな困難なハードルを私達は乗り越えられたのに、全然違う角度でその数年後私が心変わりして、その彼氏を振って、後輩である今の旦那さんと結婚するんだから、世の中わからんもんであるが。
話が相当ズレたけれど、この「五厘クラブ」は、私が長々語った恋愛ものではなく、メインで描かれるのは少年達の友情である。
良いじゃないか、少年と夏休み。
私は、もしもう一人産むなら、男の子も育ててみたいと思う。娘は、とても可愛い。
でも男の子もまた違う可愛さがあるのだ。
男の子は、はたからみて、凄まじくバカなのだ。
先日私が見た光景なのだが、女子が
「修学旅行どんな服きていく?」
と話している横で男子が話している内容は
「ウンコとチョコレートが戦ったらどっち勝つと思う??」
「ちんちんぶらぶらソーセージ~」
だった。力が抜けるか思った。
しかもわりと真剣にウンコ対チョコレートの議論をしていた。なんてバカなんだ、男子は。
そしてなんて可愛いんだ、男子。
私は、「夏休み」という不思議な時間、そこに起こるドラマチックな現象との相性は、女子より絶対に男子に合うと思っているのだった。明確な理由はない。ただ、感覚である。
あとは、夏休みといえば、大好きな映画がこれ。
打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?
傑作中の傑作。この主人公は、81年産まれという設定。つまり、私と同い年。
それは要するに、ここに描かれる6年生達の夏休みは、そのまま私の過ごした夏休みのそれと重なる。
スーファミの電子音、Jリーグが始まり、夏休みにだけ見られる朝のポンキッキ。
この作品は多くの人に語り尽くされた名作であり、いまさら私が解説することもないが、それでも言いたいのは、とにかく神々しいまでに美しい奥菜恵を見てくれ頼むから、ということ。
人生のうちの一瞬、子供と大人の間この時の輝きを、このような最高の形で映像に残してもらえた奥菜恵は、たとえ押尾学とのアレな写真が流出しても、どこぞのIT社長と結婚して金持ちにならなくても、その後離婚してしまったとしても、あの映画であれだけ輝きをフィルムに焼き付けた、それだけでもう生きてる意味果たしたよねってぐらい幸せ者であるといえる。
ラストの夜のプールシーン。あれは伝説級に美しい。バックに流れるフォーエバーフレンズの幻想的な曲調が夢のような煌めきを彩る。
みて、これ見て、たのむから。
forever friends | REMEDIOS
しかし私が敢えてこの映画の一番好きなシーンを挙げるとしたら、それは夜のプールのシーンではなく、昼間プールサイドで、奥菜恵の首筋に這う一匹の蟻を彼女が、男子に
「とって」
というシーンである。
クラスでも大人びていて、綺麗で、気になっていた女子。
その子の白い首筋に、一匹の蟻。それをじっと見つめる男子。
「とって。ねえ、とってよ」
慌てるでもなく、ただ微笑みながら言う奥菜恵には、いやらしさは微塵もない。
けれど、男子に感情移入しているこちらとしては、なんかすごくいけない気持ちにさせられる秀逸なシーンであるといえる。
あと、劇中で彼女が着ている浴衣が、昔私が祖母に縫って貰った浴衣の柄と全く同じだった。
とにかく、夏休みのうだる暑さと、バカ男子達の友情、小さな恋の切なさを描いた名作である。
話をid:yoshitakaokaさんに戻す。
小説を、ひとつでも書ききった人間なら、小説を「書きたい」から、実際ひとつの物語を「書き上げる」には、凄まじく、圧倒的な壁があることを知っていると思う。
そして、その壁の向こうにあるこの「五厘クラブ」を書いた高岡ヨシさんのことは、すごいなと思うばかりである。
また話が飛ぶが、私が、ジブリ作品の「耳をすませば」が好きなのも、主人公の雫が「小説を書ききった」からである。
小説家になりたい、と思って、そこから恋愛や友情悩みながらも、夢に向かい努力する姿は、まぶしすぎて、時折トラウマ映画なんて呼ばれ方をされている。
けれどもっと素直に、世間は、雫が頑張ってバロンの物語を書き上げたという事実を評価してほしい……!
とか何目線か知らんが私はいつも思っている。
それと、また話が飛ぶが、先日、ブログを通して知り合った方と、お会いした。そして、その方の執筆されたノンフィクションの原稿を頂戴することができた。
それはとても感動的なストーリーで、今後出版も決まっているので、ネタバレ的なことは書かないけれど、まず、文章から生半可ではない取材量の凄さがひしひしと伝わり、それだけでも畏れ入る想いになった。事実をただ羅列するだけでなく、そこに加えられる作者の感性にも、唸らされた。
とにかく、ほかにも文章の才がずばぬけているなあと常々おもっているブロガーさんや、ショートストーリーの発想が次から次へとわいてくる星新一みたいなid:rasinnbannさんなど、色々と刺激を受ける昨今。
私は「夏の決心」をしました。
この夏は、この夏こそは、私ももう一度ちゃんとわ小説と呼べるものを書きあげて、賞にリベンジしようと思っています。
最後に夏休みの名曲。井上陽水……ではなく、大江千里の「夏の決心」をお聴きください。
アイドルネッサンス「夏の決心」(MV)
……って本家のやつ無いやん。誰だこれ。
大江千里の夏の決心発売は、94年。私の夏休み真っ盛りのころの歌。わくわくするイントロ、この歌詞は国宝級。
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