うちから最寄りの幹線道路である国道176号線、通称イナロク。
どこへ行くにもだいたいイナロクを横断する。イナロクを初めて歩いたとき、私は生後2ヶ月の小さな娘を抱っこしていた。
それから、ベビーカーに乗せて。
抱っこひもに入れて。
よちよち歩きの娘を連れて。
三輪車を押しながら。
娘の自転車を後ろからおいかけ……気付けば約10年間この道を渡っている。
イナロク沿いの歩道のわきには、10年前からずっと、花束が供えられている。
そこでどなたかが命を落としたのだろう。枯れる前に必ず取り替えられる花束。
それをみるたび、なんとなく辛い気持ちになった。
そこで事故があり誰かが亡くなってしまったことに対してではない。
その人のためにずっと、花を供え続ける人の、この10年の歳月を思うと。
いつも、どんな想いで花屋さんにいくんだろう。
墓地の花より、そこに置かれる花束には、遺された人の悲しみが籠っているようで、いつも目をそむけてしまう。10年は、長い。
が、しかし、最近になって、その場所の花束が消えたのだった。
引っ越しなど、花束の主に、何か事情ができたのかもしれない。
でも、前向きな理由で、例えば、その人の悲しみに一区切りついたとか、そんな簡単にいくことじゃないけれど、とにかく、誰かの死から立ち直ることが出来た人が、いるのだとしたら良いのに、と思っている。