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神様が人間を救ってくれる存在だなんていつから錯覚していた?

桐野夏生「女神記」を読んだ。古事記をベースにした物語で、日本の国土をはじめ色々な神、自然現象を産んだ男神イザナキと女神イザナミの物語。
平たく言うと、神様同士の壮絶壮大な夫婦喧嘩のおはなし。
あとはまあ、要約すると神様産まれすぎワロタって感じで。

そんな国生み、神生みといわれる古事記の章に、小さな島の巫女の物語が絡み、物語に更なる深みを持たせている。

美しい姉カミクゥは陽の巫女、対して貧相な妹ナミマは陰の巫女。過酷な運命を背負う姉妹、特に醜い方の葛藤を書かせたらもうさすが桐野先生。

「グロテスク」の東電OLがモデルとなった主人公のときもそうだったけど、桐野夏生はご自分があれだけ美しいのに、どうしてこうも醜女のあがきを表現するのが上手なのか。

読んでいて、ヒリヒリと、自分の中の嫉妬や恨み、妬みといった泥沼の部分が刺激される。生理前に読むと、PMSとあいまってどんより気分も5割増し。だが、それが良い。

ナミマは、とても不幸な女で、心底愛した男に殺される。さらに、その男は自分との間に産まれた実の娘を生け贄にし、美しい姉と再婚する。よりによって、姉と。
何重にも裏切られ、娘まで不幸にされたナミマの悲しみ、怒り、憎しみたるや。
で、黄泉の国でイザナミが毎日千人の命を奪う仕事をしてるその役目を、私もやる、と言い出すわけだ。
でも、出来なかった。
なぜなら、肉体はなくともナミマは人間だったから。ちっぽけな人間。

イザナミ様は、『人間の命など何とも思わないのが神だ。お前は人間だから、臆したのだろう。神と人間とは違う。私の苦しみは、お前の苦しみとは違うのだ』と、いとも簡単に言ってのける。

このイザナミの言葉に、そうかなるほどと思った。神が人間を救うなんて、何を贅沢なことほざいてるのだ私達。

1日に千五百の人命を産むのも神なら、千の人の命を奪うのも神。
そんな大仕事を毎日何万年何億年繰り返す、それが神の運命であり。
いちいち命に意味を持たせていては、身が持たないだろう。しんどすぎる。そうだ、偉大な神にとって人間なんてその程度のものだと皆気づくべきである。私達に救いなんて無い。

最後に、イザナミに赦しを乞うため、もう一度黄泉の国に来たイザナキの魂。よもつ醜女に追われ殺されかけ、あれだけ恐ろしい目にあって、元妻がどんだけ怒ってるか重々承知で。それでも覚悟をきめて謝りに来たイザナキ。なせか。心底惚れた人間の女を救うために。

うわぁ。
めっちゃ、恐かったやろこれ。そしていよいよクライマックス、元嫁さんイザナミは、よそで色んな女に子供を産ませまくってきた元旦那イザナキをゆるすのか……?!

結論は最後の頁。『これからも怨んで憎んで殺し尽くすのだ』  
そうよね、これでこそ「女」神、だわ。
古事記ではなく、女神記。