珍獣ヒネモスの枝毛

全部嘘です

年末年始

毎年年末年始は忙しい。そんなもん誰だってそうだと言われると思うけど、まず印刷物の納期が早まるのでスケジュールが圧迫される。受注した年賀状も刷らないといけない。そして私は、一応長男の嫁なのだ。お歳暮は11月末までには手配しているとして、12月末には義理父の誕生日があるからお祝いのご馳走を用意しないといけないしおせちも作らないと。そんなこんなで慌ただしい年の瀬に、私は仕事を結局年内に納めることを諦めて「正月に出勤します」と言い残し、昼過ぎに会社を出て西へと向かったのだった。


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福山へ来たのは、これが初めて。


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今回の目的地は、尾道


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今年の年末は何にもしないと決めたんだ。

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夜遅くなってしまったけれど、とても良い町並みだった。

この日尾道へ行ったのは、友人が懇意にしている本屋さんに私も行ってみたいと思ったから。


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深夜に開くそのお店には、遠方からのお客さんも多く、繁盛していた。そして店主はめちゃめちゃ喋る。マシンガントークとはこのことかと思う。友人も交えて、楽しい時間はあっという間だった。

その日は、友人のつてで、向島のシェアハウスに無料で泊めていただけることになった。色々と頼りっぱなしで有難いやら申し訳ないやらで、部屋にあった炬燵で寝ることにして、用意していただいた布団を1つしか使わなかった。洗濯物を減らしたかったのだ。そのことを翌朝何気なく伝えたのだが、あとから「布団を1つしか使ってない」とはどういうことか、一緒に寝たのか、とザワつかれていたらしいことを知った。ちなみに友人は男性で、いや、まったくそういうことではなく、本当に何にもなかったからこそわざわざ伝えたし、無料で泊めて貰ってる余所の家の布団でそういうことはしないし、とにかくそういうことは当然なかったからナチュラルに伝えたことで、いらぬ誤解を生んでしまったらしい。まあ誰も深刻に眉をひそめてるわけではなく、ただちょっとびっくりされて後から本屋さん達のネタになってたと聞いて反省した。私は一応人妻だった。貞淑かどうかはわからないけれど、誰より家族を大切にしている。

この旅だって、娘が祖父母宅に滞在し、夫がライブに出掛けているタイミングだったから私も少し羽を伸ばしただけなのだ。私はいつだって娘を一番に思っている。

翌朝は、娘が早く帰れと言うのでどこにも寄らず実家へ向かった。31日は私の母親から「長男の嫁なんだからおせち頑張ってね」というメッセージが来ていて苦笑した。見るひとが見たら笑うようなセリフだけど、私の母親は本気で人生をかけて「長男の嫁」を頑張ってきた人だ。何もかも捨てて。何日もかけて丁寧に用意する正月の料理は見事なものだ。

あれは私を縛る呪いだ。

どんなに自由になりたい、今年の年末は何にもしない、と決めても結局古釘と一緒に黒豆を炊いて、有頭エビの背中に竹串をさしてワタを取り出し、サツマイモを練って、蓮根を酢水にひたし、大根を千切りし、鰹と昆布でとった出汁で炒り鶏を作る。そして作った料理を持って、正月は義実家へ行く。夫の両親は優しいので作った料理はそれなりに喜んでくれる。「年末のお父さんの誕生日お祝いもありがとう」と言われた。今年はケーキを夜中の二時まで起きて作った。夫が「たいしたものじゃないで」と言った。二回も言った。用意したのは私なのだけど。こんな時もニコニコしているために、私は時々西へと向かう列車に乗ったり、東へ向かったりするのだと思う。私の母親が絶対しなかったようなことをして、少しでも呪いから解き放たれようとしてるんだと思う。ちなみに母親のことはとても大切だし尊敬しかないし、だいすきだ。ただ、あの自分をどこまでも犠牲にする姿を刷り込まれた私は、あれが正しい母親の姿であると強く思うと同時に、ああはなりたくない、ともすればお母さんの分まで私は身勝手にさせてもらうよ、と思うのだった。もちろんそれは家族を大切にしながら、の範囲内で。