珍獣ヒネモスの枝毛

全部嘘です

年末年始の話、昨日の続き

あの地震の瞬間は、私達家族はマンションの8階にいて、確かな揺れを体感して机の下に潜った。テレビの画面からは、けたたましい緊急地震速報の音とアナウンサーの声が響いていた。泣き出した娘を抱き締めながら、私は、昔見た海外ドラマ「コールドケース」のエピソードを思い出していた。

 

コールドケースは、過去の未解決事件を、 時間軸を交差させながら謎解きする一話完結のミステリーである。80年代、 90年代に起こ その時の洋楽ヒットソングも色々盛り込まれるのが好きで、一時期ハマっていた。

そのコールドケースで、忘れられない回がある。

アメリカで実際に行われたメディア戦略が物語のモチーフになっている。

 

小説家オーソン・ウェルズは、当時 情報の最先端だったラジオを巧みに宣伝ツールに使って、 自分の小説を広めた。

それはどんな手法だったかと言うと、ラジオCMとして、 突然、普段の放送中に

『 臨時ニュースです、宇宙人が襲来しました』

と、 リアリティのある臨時速報を入れるというものだった。 あとから種明かしで、はい実はこれ今度出す小説の宣伝でした~ !という、ドッキリのようなラジオCM番組を流したのだ。

当時は、家族全員でラジオを聞く習慣のある家庭が多かったし、 ラジオの情報こそすべてという時代。 あまりにも緊迫感のあるドッキリニュースを信じて、明日宇宙人が来て地球が終わると思い、パニックになってしまった人々も大勢いたという。

ドラマの中では、やはりそのニュースを、 夫と子供と3人家族で聞いていた人妻が、家族皆で逃げる準備をしていた。しかし、 次の日彼女は遺体で見つかる……。

種明かしをすると、そのニュースを聞いて、 1度は夫と子供と逃げようとするその女性は、 地球最後の日を前にして、家庭を捨てて、秘かに好きだった男性のもとへ行こうとした。 それに気付いた夫は、彼女を殺してしまう。そんな話。

まったく、オーソンウェルズ、なんて酷いことをするんだ。 

実際こんな殺人は起きてないけど、 宇宙人襲来を信じた人は大勢いたんだから、 こういう行動をしてしまった人ならいたかもしれない。

 

明日世界が終わる、と言われたら。

この正月からテレビで流れてくる映像、ネットの情報を見て何度も考えた。そして私は、誰よりも娘と一緒にいたいと強く思った。私は絶対娘を1人にしない。