珍獣ヒネモスの枝毛

全部嘘です

彼女にあって彼女にないもの

私が大学に入ってすぐの頃だから多分15年ほど前。
テレビ番組で、ロンブーが司会のやつ。
グラビアアイドルの卵みたいな女の子達がビキニ姿で出てきて、お互いの悪口を相手がヘッドフォンつけてる間に言い合う、そんな下品な番組があって。

私は巨乳を見るのが好きだし、女同士のドロドロとかも好物な性悪だからその番組はちょいちょいチェックしていた。
で、ある日チャンネルを合わせたとき、ヘッドフォンをして酷い悪口を浴びせられまくっていた、黒いビキニの子。その子。
同じ高校の同級生だった。
 
私の通っていた中高一貫女子校の生徒は、悪い意味で、処女っぽい子ばかりだった。清純と言えば聞こえは良いが、もっさりして暗くておとなしくて、まあ平たく言えばブスで男の子に相手にされないような。
いや、よくみるとかなり可愛い子がゴロゴロ居たんだよ。私も可愛いかった。おい。
けれど、ルーズソックス、コギャル全盛の90年代。化粧禁止、髪は絶対むすぶこと。そして何より当時の価値観でいう「ダサい」をそのまま固めて形にしたような有り得ないデザインの制服は、少女らの自信をこてんぱんに砕いた。
地元で一番歴史があり、偏差値が高い公立高校を出て旧帝大を卒業した父に「レベルの低い学校にはレベルの低いやつが集まるから、校則をきつくしないといけない。自分の母校は自由だった」などと嫌味を言われたりした。
とにかくルックス競争においては他校とかなり苦戦を強いられていたのは確かだ。その結果、全員処女に見えたし本当に処女が多かった。はず。

偏差値をどんどん上げて実績を作らないとと、生徒集めに必死な学校側に勉強浸けにされ、校則に抗う気力も奪われたのだろうか、全体的におとなしい子ばかりにまとまっていた。
そんな、ひたすら地味なおさげ髪の女子ばかりの集う空間で、グラビアの彼女はやはり少し目立った存在であった。制服で抑えつけられながらも、彼女の美しさは端々から滲み出ており、クッキリとした意思の強そうな瞳が、私は少し怖かった。髪も明るい色で、本人はクォーターだからだと言っていたが根元の毛が暗かったから染めていたのだろう。そんな彼女は、行動もやや不良寄りで、「昨日よー、ノーヘルで原チャニケツしてたらよー、ポリ公においかけられてよー」などと言う事を聞いたのを今でも覚えてる。
なぜ今もそのことをしつこく覚えてるかと言うと、私が人生で「ポリ公」という言葉を初めて聞いて学習したのがその時だったからだ。尚、「よー、よー」と語尾が汚いのは彼女が不良だからではなく、私の故郷では普通に皆が使う方言であり、田舎臭いことこの上ないので私は大学時代でそれを封印した。よー。

で、画面の中にいたのが、そのポリ公クォーター彼女だったのだ。少しばかり破天荒な子だったが、まさかこういうイロモノな道に進んだとは。その後は、中居正広の番組の後ろで赤い服を着ている女の人の団体の中にいたの確認して最後、ぱったり彼女を見ることがなくなったのであった。

それからまた長い月日がながれ、ふと最近あの子どうしてるやろ、と思い出したのだ。AV女優にでもなってるんちゃうん……そんな悪趣味なことを考えながら、彼女のフルネームをGoogleで検索してみた。すると。出てきた、ブログが。

そのブログには、全然彼女らしくない真面目な、子供たちの未来がどうとかこうとか、世界平和のためにだとか、説教みたいなことがグダグダ書かれていた。宗教にでもはまったのかな?と私は思った。
が、違った。
彼女は、ビキニ姿の彼女は!
数年前某都市の(故郷なんか足元にも及ばない東の方の大都会)、某政党議員に当選していたのだった。
予想外の転身に、心底驚いた。そしてその行動力に感服した。すごい、すごいよ○○さん。なんでも2015年現在は議員を引退しているものの、華麗なる経歴と人脈を利用し華々しく政財界で活躍中のようである。少し前にはお金持ちと結婚し、式の挨拶には有名政治家が駆けつけ、余興は大物歌手の某氏が歌声を披露してくれたと綴られていた。林真理子先生もびっくり、彼女は野心の権化だった。

政治家なんて、国民の税金をちょろまかして、嘘とカネにまみれた汚い奴らだと皆思っている。あんなゲスい奴ら、と。政務調査費をちょろまかして、号泣する呆れた連中ばかりだと。
だったら、文句を言うなら、なれは良いのだ政治家に。
なれるものなら、なればいい。ただし立候補したって、当選する確証なんてないし、落選した者にも莫大な経費がのしかかる。
だいたい、私は自分の写真があの、選挙ポスター掲示板に貼られてしまうという、小学生なんかに揶揄されて、そんなつまらないことすら怖いのだ。
その世界に踏み入れた、一歩を踏み出そうと決心できたことが、既に尊敬に値するのである。

時代もまた良かった。今じゃ番組のキャプチャ映像がネットに残っていたかもしれないし、そうなれば政界入りも難しかっただろう。グラドルとして成功しなかったことも功を奏したと言える。

彼女を見て、「度胸」ってやつは、人間にとって財産であるとつくづく思った。
彼女の生き方に、私は惜しみ無い賞賛を送る以外言葉はない。

芸能界で思うように仕事がもらえず、果てはコカインパーティーに堕ちるグラビアアイドルのニュースを聞いて、彼女との違いを色々考えたが、心が弱いか強いか、それぐらいしかわからなかった。