一言で言えば「初めて見たわ、こんなん」である。
「こんなの初めて」という、うっとり恍惚な感じでもなく。とにかく、初めて見たわ、こんなん、という感じの映画だった。
私は映画を語ることができるほど多くの映画を見ていない。
なので、この監督がとった手法、すなわち
「敢えて演技経験の無い4人の女性を主人公に物語を撮影する」
というのが、もう実は誰かの手によって行われているのかどうか知らない。
そして演技経験が無いほぼ素人を使うことによって生まれる独特の「間」や「空気」も、普段からたくさんの映画を見る人にとっては「あー、はいはい、そっちね、そっちのほうね」みたいになるのかどうかも知らない。
しかしとにかく、私にとっては、初めて見た世界が、そこに5時間映し出されていたのだった。途中で集中力が途切れるかもしれない、という心配もあった。
しかし、あまりに淡々と繰り広げられるその映像に、冒頭から見入ってしまった。とにかくひきこまれた。
登場人物全員の演技、台詞まわし、ほぼ流れないBGM。
今まで自分がテレビ番組や映画などで見て来た映像作品とは、全く異なるものを、このハッピーアワーは私に突きつけてきたのだった。それは「自然」であったけれども、自然すぎて逆に不自然でもあった。
初めての体験をした時。全く初めての感覚に出合ったとき、どういう感想を持つのが正しいのか、ついつい気の小さい私は他人の出方を見てから物を言いがちである。
なので、この作品に関しては、他の人のレビューは見ないようにしている。いまのところは。
両手放しで「やったーおもろかったーバンザーイ」みたいなスカッと面白かった感の残る映画ではなかった。
でも、見て良かったと思える映画だった。
- 良かった点
やはり役者の演技が、プロとは違うので、大げさではなくナチュラル。長時間見ても疲れない。
演技している感がないから、全体的に不思議な魅力がある。
これが熱い演技のぶつかり合い、感動のBGM、どっかーん大爆発地球どうなっちゃうの、みたいな映画だったら、5時間持たないと思う。
- (あくまでも私的に)良くなかった点
これは演者さん全員なんだけど、ちょっと台詞の言い回しが全体的に遅すぎると感じた。ゆっくり喋るシーンも必要なのはわかるけれど、全編あの調子はおかしいと思う。
多分プロの役者さんじゃないから、台本を思い出しながら喋ってるんだろうな、という感じがした。
あと、むりやりドラマチックにしなくていいけれど、自分の中学生の息子が“あんなこと”を他所さまの娘さんにしでかしたら、オカンはもっと、普通はギャンギャン喚いて怒るやろ、とは思った。
普段見るドラマの演技って、やっぱり演技で、日常の私達はそんなに感情を込めていつも動いているわけではないと思う。
しかし、ここまで感情がフラットに見えるのもおかしいし、感情を抑えつつも、会話はもう少しポンポンいってほしかった。
- 印象的なシーンや台詞はいくつもあった
見る人がどういう立場なのかによって、色んな感想が出る作品といえる。まあ、なんでもそうか。
私が心に残っているのは、桜子の夫が、妻の浮気を知ってしまい、道ばたで急にうずくまりさめざめと泣き出すシーン。
そのとき彼の左手薬指に光る指輪が、ちらっと映し出されるのを見て、心が痛んだ。
あとは純の夫の「人を好きになったら、自分でも今まで知らなかった自分が殻を破って出てくる」みたいな内容の台詞は、ありきたりなのかもしれないけれど、今の私には迫ってくるものがあった。
結局男女が居て、誰かを好きになったり別れたり、そんな話なんかい、と、私のつたない感想を読んだだけの人は思うかも知れない。
でも世の中はそんな話で出来ているのだと思った。
「そんな話」が、感情的だったり淡々としたり悲劇や喜劇だったり関西弁だったり標準語だったりして色んな物語になるのだろう。