珍獣ヒネモスの枝毛

全部嘘です

豊川悦司 「せやかて工藤! !」

 岩井俊二監督の作品は、劇中に使われている音楽、特にピアノの音が好きだ。普通のピアノの音色に、ストリングスをまぜたような透明な響きが、幻想的な世界を作り出している。

 

 中山美穂主演映画「LOVE LETTER」(1995年)も、そんなピアノのオープニングから始まる。

神戸に住む渡辺博子は、山で遭難した婚約者の藤井樹の三回忌の帰り道、彼の母・安代に誘われ、彼の中学時代の卒業アルバムを見せてもらう。忘れられない彼への思いから、そのアルバムに載っていた、彼が昔住んでいたという小樽の住所へとあてもなく手紙を出す。すると数日後、来るはずのない返事がきた。その手紙の主は、亡くなった婚約者の藤井樹と同姓同名で、彼と同級生だった、女性の藤井樹。やがて博子と樹の奇妙な文通が始まる。

Love Letter (1995年の映画) - Wikipedia

 とまあこんな感じの内容で、ショートカットが可愛い中山美穂の一人二役である。

 特に私の胸キュンポイントを刺激したのが、中学生時代の中山美穂を演じる酒井美紀と、その同姓同名男子役の柏原崇というキャスティングである。

 この95年頃の酒井&柏原コンビといえば、そう、ドラマ白線流しの黄金の二人。あの頃中学生だった私は白線流しに夢中だった。

 ドラマでは酒井美紀長瀬智也に恋をしたが、私の中では柏原君とくっついて欲しかったという思いもあり(オープニングで柏原君がスピッツ空も飛べるはず』の曲とともに眼鏡クイする等、キャラ的にも医者の娘役である酒井美紀の彼氏として最もふさわしかった。まあそれじゃドラマは面白くないわな)白線流し以外で学生服姿のこの二人のカップリングが見られたのはそれだけでも嬉しかったのだ。極論を言えば、もう私にとっては酒井美紀柏原崇カップル以外の役者は、もう誰でも良いとさえ思っている。

 ただし、この映画で一人、役作りというか演出というか、どうしても私の中でしっくりこない役者さんがいる。中山美穂の婚約者を演じる、豊川悦司さんである。



 いや、豊川さん自身には問題がないのかもしれない。もちろん演技は申し分無くうまいし表現力のある魅力的な役者さんである。では何がいけないのか。

 

 それは、彼の喋る関西弁が、もう、ほんまに、けったいなんですわ!!

 

 豊川さんはコテコテの大阪八尾出身。で、大学も関西の慶応と言われる(私が言ってるだけ)関学を出ており(厳密に言えば中退)、もともとの関西弁のイントネーションがおかしいとかそういうことではない。ただ、この映画の中で豊川さんが喋る関西弁、これほんま、どないかしてほしいんですわ!

 具体的に気になる点は、「○○っちゅーこっちゃ」とか「○○やがな」という語尾。あと、全体的なテンションの高さ。少し古い関西人のイメージを、関西人が演じている感じ。

萬田金融なら、それで良いんだ。舞台が浪速区とかの串カツ屋ならそれで良いんだ。沢木の親分が出て来て、エンディングは戎橋で梅子が銀次郎に絡んでるシーンで終わるならば、それで良いんだ。でも、中山美穂の婚約者で、岩井俊二ワールドの登場人物なのだから、この喋りはちょっと。

 だが考えてみると、もともと少し古い映画だし、この頃の関西人はみんなこんなんだったのかもしれない、とも思った。

 特に「テレビに出てくる関西人」というのは、今よりずっとステレオタイプで、もうみんな「せやかて工藤!せやかて工藤!でんがな、まんがな、おまんがなあ〜」って人ばかりがメディアに出ていて、東京からイメージされたその関西人像に、自分から寄せて、“関西人が関西人を演じていた”時代だったのかもしれない。

 今は、ネットのおかげなのか、日本が狭くなったと思う。物質的な往来という意味ではなく、人同士の関わり、という意味で、大阪と東京が近くなった。わりと世の中には色んな関西人が出て来たと思う。

 関ジャニ村上君みたいな、今なお「関西人を演じる関西人」もテレビを賑わしているが、ピースの又吉さんみたいな、静かなトーンで関西弁を喋る人が出て来てくれて、私は嬉しい。まあ、又吉さんも芸人だけど。

 あたりまえのことだが、関西人全員が、おちゃらけていて、みんなオモロいわけじゃない。皆漫才みたいに喋って、ボケたらズッコケたりしてみせてるわけじゃない。トイチの金貸しをやってるわけでもない。私みたいに、暗くて覇気のない、陰気な関西人も大勢いる。普通の関西人が、ポツポツと世間で認知され始めた21世紀は、すばらしい。

 まあ、そういうこっちゃ。ほなさいなら〜。でんがな~。