さて、帰るか - 関内関外日記(内)
この方の紹介されたサマーヌードという曲を聞いて、色々思い出したので。
私の故郷には、人形供養で有名な神社がある。
他府県の人が境内に入ると、まず目に飛び込んでくる人形群に圧倒されるらしい。地元の人間からすればこれも見慣れたもので、何か霊的な恐ろしい場所扱いをした余所者が、面白半分にこの神社のあること無いことをネットなどに書いてるのを見ると、なんだか悲しくなるしイラっとしてしまうのだった。お人形さんは、怖くないよ。呪われたとか思う人は心に疚しいところがあるんじゃないかと思う。
この神社には、他にも色んな物が祀られているのだが、本殿に向かって左手奥に進むと、女性の下着や、男性器を模した木彫りの御神体みたいなのが複数ある。
これもまたいかがわしい噂をあれこれ言う輩が出る一因でもあるんだが、そういう信仰が各地であるのは珍しいことではないだろう。
私は、この神社から見える海がとても好きだ。妊娠した時は、戌の日詣りもここでお願いした。
心霊スポット呼ばわりされているここの神様が守ってくれたおかげで、私はとても可愛らしい女の子を無事出産し、育てている。
そして今、故郷を思い出すことも少なくなった。というか、殆んど忘れて暮らしている。
そんな時、この文章を読んだ。そしてリンクされているサマーヌードアドレセンスという歌を聞いたとき、故郷と遠い夏の恋を、海辺の匂いを、思い出したのだった。
件の神社の参道には、『満幸商店』という食堂兼土産物屋がある。口に出して言いづらい店名ではある。
その満幸商店で、昔彼氏に撮ってもらった写真を、この前古い荷物の片隅から娘が見つけ出したのだった。
「これママー?かわいいねえ」
その1枚を見せられた時、ドキリとした。何もきわどい写真ではない。普通のスナップ写真。
きわどいのは店の名前だけだ。
そこには、しらす丼を前にニッコリと微笑む私が写っていた。
娘の知らない男に向けられた、私の屈託無い笑顔。
その写真を撮ったあと、二人で何をしたかも覚えている。そんな写真。それ自体は何でもない1枚、だけど、とてつもなく後ろめたいのはなぜだろう。夫には絶対見せたくないと思った。
その時の彼氏は、とてもカメラが好きで、フィルム式の一眼レフでたくさんの私を切りとってくれたけど、私が持っているのはその1枚だけである。
「ねえママ、かわいいねえ、ここどこ?」
そうだね、若いよね、特にこの写真可愛く見えるね。これ以上この写真について喋ると、誰に撮られたのかとか、クリティカルな質問が飛んできそうだったので、早々に娘の手から奪ってゴミ箱に棄てた。……棄てたのだが、やっぱりちょっと可愛く写ってるのもあり、惜しくなってまた拾って、押し入れの天袋の箱に入れておいた。
と、そんなことがちょっと前にあって。
色々思い出したけど、また、忘れてしまうだろうな。